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May,23,2005

「ホミニッド -原人-」
著者:
ロバート・J・ソウヤー
出版社:
早川書房
分類:
SF,文庫

廃坑の奥深く、ニュートリノ観測設備の中に突然現れたのは、ホモ・サピエンスではなかった。

彼は二万七千年前に死に絶えたはずのネアンデルタールだったのだ。

 

アメリカでは本当にネアンデルタール・ブームってあったのですね。本作品を読むに当たって日経サイエンス2005年4月号など読んでおくと更に楽しく読めるでしょう。日経サイエンスの方は、一万三千年前まで共存していた原人ですが。

基本的にツッコみどころの多い作品です。本題は文明批評と性の問題だと思うのですが、それ以前に疑問がいろいろと。別宇宙のネアンデルタール、都市作っているし、人口少ないくせに高度なテクノロジーを持っているし、その手の技術発展に必要な頭脳集積が不可能に思えます。高度な人工知能に思えるモノを持っているくせに人工知能はありえないと否定していますし、感染症についても甘く見すぎ。そして、量子コンピュータの描写の駄目くささといったら。もちょっと書きようがあると思うのですが。

SFとして読むとヘボさに目眩がするような内容ですが、まぁ取っつきやすい内容なのかも知れません。

「タフの方舟 #1」
著者:
ジョージ・R・R・マーティン
出版社:
早川書房
分類:
SF,文庫

連作短編ですが、第一話はずば抜けて面白い内容でした。キャラクター描写が有る程度類型的で、先が読めるのが楽しいですし、読めない唯一の登場人物である主人公の造形も面白いです。アイディアも凝らされており、一度高度星間文明が没落した後の星間交易という、ありがちな舞台とツッコみどころを無視すれば、なかなか楽しめる内容でした。

……あとの二編は普通の水準でした。

「ハックルベリィ・フィンの冒険」
著者:
マーク・トゥイェン
出版社:
新潮社
分類:
一般,文庫

食う前にお祈りしたり、学校に行ったり、色々とお行儀良くしている堅苦しい暮らしにも慣れた頃、飲んだくれのおやじが帰ってきた。てっきり死んだものと思っていたおやじは、僕をつかまえて森の小屋に押し込め、鞭でぶったり、金をせびりに出かけたりした。僕はこういう、魚を釣って暮らす堅苦しくない暮らしも悪くないと思ったけど、やっぱり逃げ出そう。

19世紀後半のアメリカ南西部の田舎の様々な物事が、満足な教育を受けていない主人公フィンの視点から公平に描かれます。要するに教育と常識に既に偏見と間違いが存在しているという指摘です。これは読む限りにおいて全く正しく思われます。

暴れるアル中の親父や、自己中心的なペテン師、何処とも知れぬ故郷へ帰ろうとする脱走奴隷、人間性の負の面を含む様々な側面をリアリズム的に描きながら、どこかそれらをも抱擁するような視点が素晴らしいです。また、単純な社会批判になりそうでならない、そのバランスの良さも魅力です。

……しかし、この頃からゴス思想はあったのですね。死んだ娘の話で、黒い服ばかり着て沈鬱な詩や絵ばかりを描き、誰かが死ねば真っ先に駆けつける、という塩梅。

19世紀後半のアメリカ南西部、フィンの視点を通すと、どこか異世界のようです。トム・ソーヤだけが非現実的なまでに理想論的でアクティブなのが玉に瑕、でしょうか。アメリカ文学の出発点としてふさわしい作品です。

「石の血脈」
著者:
半村良
出版社:
角川書店
分類:
SF,文庫

東京近郊の大規模住宅開発は日本を牛耳る巨大企業グループに阻止された。小さな壷がデパートの展示会場から盗まれ、編集者は建築家の遺品に暗殺教団への興味を見い出し、廃工場で一人のコソ泥が死んだ。

まだ誰も、巨石文明だとか吸血鬼だとか暗殺の黒幕だとか、そういった事と関連して考えていないし、それどころか、そういった浮ついた戯言を誰も本気にはしていない。

そして、妻に逃げられた男が、赤い酒場にたどり着いた。

これまで読んでいないものをリストアップして計画的に攻略する、その一環です。


傑作です。間違いなく面白い作品でした。一気に読みました。

後から思い返せば回収できなかった伏線らしきものが山ほどありますし、作品の冒頭のほうと最後のほうでは違うニュアンスになっているものもあります。しかし読んでいる間は気になりませんでした。

物語は基本的にタイトで、ディティールに富んでおり、読ませます。ありがちなネタを、ありがちだと思わせておいて一気に大量の情報で読者を謎へと引きずり込む手法は素晴らしいです。いささき繰り返し過ぎだとは思いましたが。あ、あとエロも素晴らしい。

基本的に伝奇モノっていうのは嫌いです。が、本書は例外的にお勧めできる内容だと思いました。展開が無茶苦茶過ぎです。アトランティスと暗殺教団から始めておいて、それがほとんど関係なかったり、巨石文明の話が日本にまで展開し、と思えばケネディ暗殺やら吸血鬼やら。大体メインアイディアがジョークを本気にしたような代物だし。素敵な内容でした。

「宇治拾遺物語 上下巻」
出版社:
岩波書店
分類:
FT,文庫

今昔物語より短めのこっちからと、目標変更です。

とにかく読みづらいです。昔の日本語、読んでられません。全く言語というモノは、時とともに移り変わるものだと強く思い知らされました。これが平家物語になると随分と読みやすくなるのですが……

一つ一つのエピソードが短く、また要点がどこにあるのかいまいち判然としないものも多く、物語としてはあまり楽しめませんでした。雰囲気は溢れるほどあるのですが。

しかし、時代の精神というか、潜在的な時代の方向性というものは強く感じられました。

「キューブサット物語」
著者:
川島レイ
出版社:
エクスナレッジ
分類:
趣味,単行本

衛星を造るのは、衛星であるというだけなら、それほど難しい話ではありません。

ただし、確実に動くこと、本当に動くこと、それを実際に動かしたら二度と修理する事ができないという条件と要求は、他の機械とは全く違います。実際のところ、宇宙環境のどのような条件も、この二度と直せないという制約ほど難しいものではありません。

それを考えると、それまで半田づけもしたことも無いような素人がいきなり本物の宇宙機を作る、というのは厳しい気がします。しかし、衛星作りには厳しさ以上の魅力があります。本物の宇宙機、自分の手で作り上げる自分の星、というのは魅力的に過ぎます。

本書に出てくる学生たちは、羨ましい、の一言に尽きます。

「テレメータリングの実際」
著者:
石橋誠一
出版社:
電気書院
分類:
技術,ハードカバー

最近、こういう古い技術書を読むのを楽しみにしています。

この本がどのくらい古いかというと、平衡伝送が存在しないくらい古いんです。1964年、この頃はまだ伝送ノイズに対して体系的に対策を講じていませんでした。

テレメータリング、つまり多種データの長距離伝送ですが、今はネットで多種多様なデータをじゃんじゃん流せるものの、昔は自動機器が複数のデータを一本の伝送路で送ろうとすると、それは相当の困難を伴ったのです。

今日のネットワーク、階層化された機能分担によって様々な能力を付加された通信システムは、裏で何をしているのか知らなくても気軽にメッセージをやり取りできます。しかし昔は違った訳です。

誤り訂正はおろかエラー検出すら無く、当然データ圧縮も経路制御もありません。自動データ伝送機器には再送制御すら無く、メッセージは当然固定長で垂れ流しです。

コンピュータがその辺りを全て変えたのです。

 しかし、コンピュータが無い頃はどうやっていたのでしょうか。

まず、電圧を電流に変えて送信、波高値に変えて送信。こういうのは距離が伸びたり変化したりすると使い物になりません。電圧を周波数に変えると、距離が長くなっても平気ですが、相手が高速で動いているとアウト。

そこで出るのがパルス伝送です。例えばのこぎり波を作って、これとサンプリング電圧をコンパレータで比較すると、サンプリング電圧でパルス幅が変化するパルスが作れます。コンパレータが無くても、例えば微分回路でパルスを生成するなどして、元ののこぎり波の周期の中のパルス位置という形で値を示す訳です。この辺りは自分の想像どおりの記述があって、ちょっと嬉しかったです。やっぱそうするよなぁ。

入力が数チャンネル位だったら、モータやぜんまいで動くスライドスイッチで接続を物理的に切り替えていきます。うち1チャンネルは固定パターンにしておくと、それを元にチャンネルの順番がわかるので便利です。1950年代にはこういうテレメータ装置が掌に乗るようなサイズになっていました。

しかし、更に多チャンネル、更に高速伝送を狙うようになると、2値ディジタル伝送が行なわれるようになります。ここまで来るとコンピュータまですぐです。

サンプリングされた2値データはそれぞれレジスタに収められ、カウンタに従ってパラレル-シリアル変換に送り込まれます。場合によってはパリティビット付与といった演算も行ないます。

平衡伝送が実用化するのはこの直後の頃です。やがて再送制御が実用化され、誤り訂正は高度化し……


技術史を知ることは、現在の技術がなぜそのような姿をしているのか、その理由を知るために非常に有意義です。技術者は、自分の扱う技術の歴史を知っておいて損はありません。

なぜなら、今日の技術的組み合わせは、過去においては意味があったが現在では無意味な、一連の偶然によって決定されているものが殆どだからです。

現行技術の姿を、そういうものだと疑問ももたずに受け入れていては、より良いものは作れません。技術史は、技術的盲腸を取り除く良い道具となります。

「スペースシャトルの落日」
著者:
松浦晋也
出版社:
エクスナレッジ
分類:
技術,ハードカバー

1981年の初飛行以来、スペースシャトルは、アメリカという国の強大さを見せつけ続けてきました。100トンを超える超大型有人宇宙船は毎月のように軌道投入され、その打ち上げ回数は100回以上にものぼりました。

世界はシャトルに夢中になりました。宇宙に行く方法と言えばシャトル、NHKの朝の連続ドラマの主人公も、へっぽこトレンディドラマのヒロインも、子供がクレヨンで描くのもシャトルでした。漫画やアニメでは、オービターが外部タンク無しで水平に飛び立つなんて代物さえありました。

私は子供のころから、そういう風潮にずううっと違和感を感じてきました。粘土で恐竜と一緒にサターンVを作る幼稚園児だった私は恐らく最後のアポロ世代で、真空である宇宙を飛ぶのに何故か翼が付いているシャトルは、いかがわしい代物でしかありませんでした。

そして実際、シャトルはいかがわしい代物だったのです。


スペースシャトル。100トンを軌道に投入しておいて、70トンを持って帰ってきてしまうこの"輸送システム"は現在、一回の打ち上げに800億円の費用を必要とします。どこをどうすれば、ここまで間違ったシステムが出来上がるのでしょうか。


宇宙開発の世界には、まともに考えれば明らかにおかしい代物が山ほども存在します。その第一が翼です。宇宙では不要のこの代物を付けた宇宙船こそが、次の世代の宇宙船だと誰も彼もがかつては信じていました。彼らが宇宙飛行機、スペースプレーンと呼ぶ代物です。地上を100キロも昇れば無視できるような代物、大気は、彼らにとって宇宙に充満しているように感じられたのでしょう。そして、空飛ぶ自動車を妄想するような無邪気さで”宇宙の飛行機”という害毒を撒き散らしたのです。

彼らは、超音速航空機で宇宙へ到達しようと考えましたが、それはどう考えても、80%のロケットエンジンの助けがあって初めて実現するような代物でした。また、超音速航空機を第一段に使用できないかとも考えましたが、コスト回収を考えると、SRBのほうが明らかにお得でした。性能も上だし。

とにかく翼の付いた宇宙船を打ち上げようという考えもあります。輸送システムとして見ると正直、再使用型フェアリングでしか無いのですが、最近の案では、更にフェアリングの中に格納するそうです。

第二は、液酸液水エンジンです。特に単段打ち上げ機に使おうというのはどう考えてもおかしいでしょう。低密度推進剤はタンクを肥大させ、機体の構造重量比を極端に悪化させます。特に構造重量比に関する要求が厳しくなる単段打ち上げ機が液酸液水エンジンを使おうとするのは、水ロケットで宇宙開発をしようとするようなものです。使い捨て機でも同様ですし、再使用機ともなれば機体サイズを小さくし、エンジンへの要求も軽くなる高密度推進剤を使い、再使用へのハードルを低くするのが当然の筈です。

第三は再使用です。再使用すれば安くなるという”常識”の前に、合理的判断は放棄されてきました。アビオニクスの高価である事を再使用の動機付けにする意見がありますが、例えばアポロやソユーズのアビオニクスの実体、目的に対してどのように取り組んでいたのかを知ってしまえば、現代の技術で構成されるアビオニクスのコストを見積もる事は容易です。技術史を知ることは、こういう時に役立ちます。

シャトルはこれら三つの過ちを煮詰めた代物でした。


本書はシャトルの問題点、過ちをこれでもかとばかりにあげつらいます。書き方は一方的にも偏向的にも思えるでしょう。しかし、書かれている事は全て事実です。それどころか正直、まだ充分温情的であると思います。

本書はシャトルシステム、二回の事故、開発時の状況の概要を描いた上で、実際の運用がどのようなものであったか、今一度問い直します。そしてその上で、日本の宇宙開発の今後について提言を行ないます。

ここまで読んだ時点で、読者は日本の宇宙開発の将来計画が、現状どれだけ空虚なものか理解するでしょう。読者には、ここで更に自分で考える事を期待します。シャトルという思考停止から脱却して。

「恐るべき旅路」
著者:
松浦晋也
出版社:
朝日ソノラマ
分類:
技術,単行本

本書は火星探査機「のぞみ」の探査計画の端緒からその運用終了まで、一つの偉大な、しかし悲劇に終わったプロジェクトを描きます。内容は極めて密度が高く、描写は細部まで行き届いており(惜しいのは運用が最も困難な時期のディティールが比較的薄い事でしょうか)、読ませる内容になっています。火星そのものや宇宙研の研究といった記述もよくなされており、要点もよく整理されています。

本書は特に、技術者にお勧めしたい内容です。基本的な数理と工学の知識があれば、本書によって火星探査機について、極めて深く理解できるでしょう。特にその驚異の運用は、感銘を与えずにはいられないでしょう。

逆にいうと、知識の無い人にはよく判らないであろう部分がいくつかあるのが残念です。電磁バルブの図など、知識が無ければほとんど理解できないのではないかと思います。わかりやすい図表がもっとあったほうが良かったと思います。文章が極めて判り易いだけに残念です。しかし、理解を妨げるものではありません。知識が無くとも「のぞみ」の旅は、強い感銘を与えるでしょう。

「資本論 #3」
著者:
カール・マルクス
出版社:
岩波書店
分類:
一般,文庫

ようやく第三巻。中身は毎度の事ながら薄いのですが、面白かった点はいくつかありました。

例えば、当時すでに時給制は存在していた、とか。時給制の起源はロンドンの地下鉄建設現場で採用されたのに遡るようです。ただ、マルクスはこれを日給よりも工賃を削るための方便とみなしていました。歩合給も同じく。なんというか、マルクスは明らかに合理的思考ができていません。

後半の、資本主義的蓄積の一般的法則の例解、と題された部分は、産業革命期イギリスの産業と労働の状況についての良い資料となっています。恐らく偏りはあるのでしょうが、ディティールはしっかりしています。ヴィクトリア朝イギリスに興味がある向きにもお勧めします。


生産システムが大幅に変化したので、マルクスの主張は現在真ではありませんが、過去においては説得力があった、それは判ります。しかし通貨という、1次元値しか持たない、それ以外の情報を保持しないものを、剰余価値とか不変資本とかに分解して解釈を試みるのは、どうしても受け入れる事ができません。この手の解釈を認めると、サイクルを遡る事でどんな立場でも悪役に仕立てる事が出来そうです。

……もう読むの止めようかなぁ。唯物史観ってどの辺りで出てくるのかなぁ。

「経済学の歴史」
著者:
根井雅弘
出版社:
講談社
分類:
趣味,文庫

という訳で、アンチョコに退避です。

本書を読む目的は、自分と同じような事を考えた奴が、過去にはきっと居るんじゃないか、そういう事を確認する事です。

居ました。カール・メンガーの所謂”方法論的個人主義”が相当するように思えましたが、が、何故かピントがずれている気が。ワルスラもずれているなぁ。精密科学とは検証可能性、どんなに数字を並べても、それらしい、という辺りから抜け出せていません。

面白いのはやはりケインズで、明快な理屈と、何よりも検証例が多い点が良いです。他は何と言うか、経済学者どもは社会福祉とか偉い事を考え過ぎですね。そこに極端な跳躍があることに気が付いていないから、理論もどきばかりを捏ね繰る事になります。

お金を使わなくても、人間の行動には経済システムが内在します。メニューを選ぶ、道を選ぶ、何もせずにゴロゴロする、それら全てにお金を使うのと同様なシステムが働いていると考えます。自分はそういう部分に興味を持っていますが、残念ながら、経済学は全く助けにはならないようです。

「プログラミング言語の概念と構造[新装版]」
著者:
ラビ・セシイ
出版社:
ピアソン・エディケーション
分類:
技術,単行本

再読ですが、改めて学ぶモノが多いです。そして、読むことが嬉しいです。

妙な表現ですが、書かれている物事がすべて本物で、実装されて確認され、自分でも応用可能な事実で、空虚なデタラメでない、という事の素晴らしさはいくら強調してもし足りることが無いと思います。

例えば本書を読んで得るモノを人文的に表現すると、詳細と抽象の関係、名前というモノのありかた、メッセージが何を、どのように指しているか、そして推論というものの一般化と形式化、という感じになるでしょう。実際にはスタックの振る舞いの考察であったり、レコードテーブルの構成だったり、末端再帰の最適化だったりする訳ですが。

色々と考えてしまいます。例えば、真の抽象を実現するにはどうすれば良いか。例えば万能問題解決機は多分、問題を解決可能な単位にまで分解し、それぞれに解法を破綻無く割り付ける事になると思うのですが、そこで考えるのは解法をどうやって検索するか。

解法をオブジェクトとして持つ時、検索に対してもインタフェイスを提供すべきでしょう。外部にレコードを持つのではなく。オブジェクトに機能を問い合わせることは可能でしょうか。……やっぱユニークID持たせて、外部に問い合わせさせる、マイクロソフト方式なのかなぁ。

抽象的な問題をどうやって分解するか、それは別の話として興味があります。


再読は、そろそろ新しい言語を作ろうかと考えてのこと。

自分は何かきっかけがないと走り出さない方だから、ガツンと宣言しちゃいます。

作るのは、リアルタイム言語。リアルタイムOSを代替する、新しい組込みシステム。

そもそも歴史を遡れば、リアルタイムOSに先行してリアルタイム言語が存在していました。それが、優先度付きスケジューラと専用サービスコールによるディスパッチの実現によってリアルタイムOSの時代が来たわけです。が、プログラムの書き換え、安全性、安定性、セキュリティなどを考えるとやはりリアルタイム言語のほうが強いです。

言語がスケジューラとスレッドサービスを提供することにより、粒度の細かいスレッド切り替えが可能となります。ステートマシン記述に適した文法を採用し、その上で構造化データとその取り扱いサービスをサポートします。外部とのシリアルデータ伝送を規格化し、コマンドとスクリプト書き換えをシームレスに統合します。

これが実現すると、まずロボット自作が簡単になります。リアルタイムOSの能力をスクリプト言語で使用可能とするのです。安全なモード動作をサポートし、マルチスレッドの協調動作を簡単に実現します。

そして、更に高度な自律システムの構築をサポートするものとなるでしょう。規格化されたメッセージはシステム間の協調動作を可能とします。構造化データの取り扱いサポートは、組込みシステムが高度に抽象化されたデータを取り扱うのを助けます。

本システムの究極的な目標は、人工知能の実現です。


……とまぁ、ここまでブチアゲとけば、途中で放り出したりしないよな。

「C++の設計と進化」
著者:
Bjarn Stroustrup
出版社:
ソフトバンク
分類:
コンピュータ,単行本

最近ようやく読破。濃い一冊でした。

静的プログラミング言語の到達点と現在の状況、問題等を概観できる一冊です。特にテンプレートについての記述はちょっと他では読んだ記憶がありません。

ここ20年ばかりの静的オブジェクト指向言語の変遷について、本書以上に詳しい本は無いと思います。また、C++について突っ込んだ理解の得られる良書だと思います。

「MONA」
著者:
ひげぽん
出版社:
毎日コミュニケーションズ
分類:
コンピュータ,単行本

本書は、フルスクラッチOS"MONA"について解説する本です。

OSに関する知識の無い読者にも読めるように丁寧な解説がされており、知識のある人間には逆に読みづらく、また初心者にも、記述の偏りから勧めにくいものとなっています。

……いや、勧めていいのかな。自分はこの点については確信が持てません。記述が”狭い範囲で正しい”というのは、どう扱うべきなのでしょうか。自分はもはや”OSが欲しいからOSを作る”という考え方が完全に理解できなくなっており、コンピュータパワーの効率的な使用手段として、新しいOSが何らかの解となるという無邪気な見解を全く支持できないのです。


本書の読みどころは第六章の2chログ抜粋でしょう。面白い形態の開発シーンですが、お勧めして成立する種類のものでは無いので、ちょいと微妙なものがあります。

第七章も、人によっては興味が持てる内容でしょう。MONAに新味はありません。システム的には開発形態以外の興味深い点はありませんが、素直というか安直な実装に励まされる向きもあるかと。

しかし、こう読むと自分、OS開発に必要な要素はひととおりこなしてるなぁ。ブートローダ、386カーネルモード移行、スケジューラ、ファイルシステムもどきも一応作ったし。

「教科書には載らないニッポンのインターネットの歴史教科書」
著者:
ばるぼら
出版社:
翔泳社
分類:
コンピュータ,単行本

極めて濃い、読み応えのある一冊です。

パソコン通信時代の初期も話題にはしますが、本題はInternetとWebです。懐かしい内容も多いのですが、知らない事柄、歴史も多く、読ませます。本書はアングラ系を幅広くカバーするその網羅的な内容と、客観的な記述により、間違いなく貴重な一冊となるでしょう。

本書の素晴らしい点は、状況の変化に関して、原因を明らかにして追っているところです。お陰で、様々な変化が明快に理解できるわけですが、これらを追って調査するのは、非常に骨の折れる作業だったと思われます。

勿論、不満点もあります。

初期パソコン通信の話題では、例えば電々公社が運営していたBBSや、電々公社の民営化に伴うBBS閉鎖による、常連による各地草の根BBSの創設、といった話題が欠けていたのが惜しまれます。地方では、これが草の根BBS創設のきっかけだったのですから。

アレゲ系(恐らく本書によってこの名称は、BSD・オープンソース関連日記システムコミュニティ系の名称としてがっちり定義されてしまったと思われる)の日記コミュニティの記述が足りないのも物足りません。彼らは明らかにblog同等システムの先駆実装者であり、その利点を先駆けて享受していたのです。

特に”小鳥のお兄ちゃん観察にっき”とその閉鎖(2000/3)が取り上げられていないのは不満です。架空の妹が、記述者である兄の行動、言動などを書いていく、というスタイルで、オープンソース開発系の濃い記述と相まって、非常に読ませる内容でした。また、そのスタイルは文学の新たな地平を切り開くものであったと考えます。とにかくあんなの見たこと無いし。自分にとって、どんなテキストサイトよりもインパクトのある日記サイトでした。閉鎖を引き起こした当事者を今でも憎んでいるほどです。

あのスタイルは、将来型情報インタフェイスの雛形だと考えています。架空の妹やらメイドさんを補助インタフェイスとして持つ、痛々しいスタイルは、オタの対外情報能力を情報機器で増強した時、緩衝装置として必須であろうと考えます。あれこそ、未来だったのです。

本書は第一級の歴史書として、確かな価値を確立しました。ネットワーク史に興味を持つ人は勿論、ネットワークの不可思議な状況に興味を持った人、そして、ネットワークの将来に興味のある人にもお勧めします。ただ、教科書というのには違和感が。

「電波男」
著者:
本田透
出版社:
三才ブックス
分類:
趣味,単行本

内容のあまりの正しさに泣けてくる一冊です。

キモオタ恨み節を突き抜け、真の愛を説く本書はキモオタは勿論、単なるオタ、ダメオタ、駄目人間、DQNを含むあらゆる人々に一読をお勧めします。

本書は、現代恋愛価値観が倫理に反する存在=DQNを排除せず、ただ単に外観の美醜のみによって搾取=被搾取の構造を肯定していると論じます。そして代わりに望ましい価値観として、恋愛を脳内妄想に封じ込め、搾取構造から脱する事を説きます。

内容は現代社会の倫理に抵触しそうな代物ですが、基本的倫理に照らして間違った事を言っている訳では有りません。本書は逆に、基本的倫理に従い現実に即して現代的な恋愛価値観を糾弾します。


本書はお勧めできる良書なのですが、自分はイケメン/キモオタの対立軸より、DQN/オタの対立軸の方に注意を払うべきだと考えます。

この後者の対立軸は、人間関係の維持に対する態度に起因するモノです。そこには、人間としての能力の全てを人間関係の構築と維持に払い、他には全く関心を持たないか、ギャンブルのような取るに足らない代物にしか興味を持たない一般人を軸に、人間関係において相手を傷つけることを恐れないDQNと、傷つけられる可能性故に人間関係を恐れるオタが浮かび上がります。

両者は社会から同じように浮いた存在ですが、無害である筈のオタも、人間関係構築こそが人間存在の主要命題であるとする社会通念に反する存在として、迫害を受けます。

人間関係無くば、豊かな人間生活は送れない。その考え方は正しいのですが、オタの多くは人間関係の簡便な類似物でその辺りをごまかす術を覚えて、人間性維持に関する問題を乗り越えます。

心の健康には悪いかも知れませんが、摂取するのが粗雑な類似物でも死にゃしないのです。



中学の頃に読んだ一冊のSF、エリック・F・ラッセルの「宇宙のウィリーズ」というその作品集に収録された中編の、冒頭のほうにそのセリフはありました。

「……結婚したい気持ちになったときは、いつも静かに横になって、衝動がおさまるまで待つんです」

読んだ時、えらくクールなセリフだと思った記憶があります。

今になってみると、実際あのセリフは素晴らしくクールであった事がわかります。その手の苦痛は、比較的簡単に対処可能なのです。という訳で、自分の対処法はこっちです。


……まぁ、結論は一緒ですね。


本書はバブル文化のくびきからの脱却、言ってみれば輪廻からの解脱を説いているわけですが、そのための手段がニーチェばりの超越化、喪男完成というのは、大衆に説くにはキツイです。価値転換を要求するのもきついのですが、要求するレベルも高いものです。ヒトというものは、元来ダメな存在です。なんというか、三次元に魂を引かれるのを非難するのは可哀相ですし。

私は、情報処理ハードウェアの援用による人間関係支援によって、価値観転換無しに本書的な豊かな人間生活を実現することを提案します。外部情報と当人との間に、出来る限りクッションを噛ませて、煩雑な対人プロトコルの下層処理を、情報機器に代行させます。

人間というのは結局情報システムであり、対人関係というのは、恋愛も何もかも、要するにデータ通信です。そしてそれには、現在人力で処理している煩雑なプロトコルが付随しています。これら下層処理を代行するのがシステムの眼目です。またこの処理は、対人関係エミュレータを導入するのにも有効でしょう。要するに脳内ではなく、機器による実装で実現するのです。

現代人は、社会が要求する様々な通信をサポートするだけで手一杯であり、これをできるだけ巧くこなすのがスペックの高い人間=情報システムだとみなしています。私の提案は、この価値観を破壊します。つまり、提案実行によって自然に価値観転換が起きるわけです。


結論は変わりません。私はただ、その過程を加速するだけです。

「ファンタジーの歴史 空想世界」
著者:
リン・カーター
出版社:
東京創元社
分類:
趣味,単行本

ファンタジーって、好きなのかどうか、よくわからないのです。

ファンタジーっぽいものは、時々無性に欲しくなります。恒常的な飢餓状態にあるといっても間違いじゃ無いんです。でも、ファンタジー文学やら漫画やらゲームやらに触れてみると、これが駄目、受け付けません。

もしかすると自分、ファンタジーというものを徹底的に誤解しているのではなかろうか、そういう不安に対して、本書はある程度の答えを与えるものでした。


著者はイェイツやダンセイニの更に源流から論を始め、トールキンやラグクラフトを経由して、アメリカ大陸で花開いた、いわゆる蛮人コナンやら諸々に話題を進めます。いわゆるハイファンタジーに関する話題は少なく、例外は「最後のユニコーン」ぐらいでしょうか。

しかし何とも視野が狭い内容です。著者は良いファンタジー作品に必要なものとして、魔法使用のシステマチックな制限を挙げていますが、そもそも魔法というのがリアリティ無いんだから、そういう妙なところでリアリティを回復しようというのがおかしいし、そんなものはテクノロジーの代替物に過ぎないわけで、そんなものにファンタジーを感じるのは、少なくとも私には困難です。

理解できるようで出来なかったのが、命名法についての議論です。著者はここにずいぶんと大きな紙面を割きます。異質さと規則性を推奨する内容には賛成しますが、それほどの論点だろうかとも思います。特に筆者のセンスは理解できません。

全般に、笑いどころの多い内容だった、というのが私の感想です。こういうファンタジーは、少なくとも私には不要です。


人のココロというのは妙な仕組みになっていて、パターンによっては、全く論理的でなくてもそれはあり得るし、あると思いたい、そういう架空の現象があるのだ、と、私は思います。それがファンタジーだと。

ファンタジーに関して、私の心に最も残っているエピソードは、ルーシャス・シャパードの「戦時生活」にあった一節です。

……だが、悲しくもあった。この話が彼の核心をつくっている神話で、ギルビーが宝物のように守ってきた宝石だからで、それをこうしてひきだしてしまったのはわるい兆候のように思えた。

人は誰しも心の奥底に一つの物語を隠している、と。全く論理的でないのですが、そう信じています。きっと私の物語は、とても妙ちくりんなのでしょう。共鳴できる幻想風景は、どこにも無いのでしょう。

「図解 OpenGLによる3次元CGアニメーション」
著者:
橋本洋志・小林裕之
出版社:
オーム社
分類:
コンピュータ,単行本

OpenGL再入門。殆どの内容は再確認に過ぎないのですが、絞られた目標に向かって要点がコンパクトにまとめられており、内容に沿って進むことで達成感のある成果が得られるよう工夫されています。とっかかりとしてお勧めできる内容だと思いました。

ただ、本書だけでは取りこぼしたまま置き去りにしていく部分が多いため、人によって消化不良の感覚が残るかもしれません。かつては不思議な呪文に過ぎなかったものが、今なら体系的に理解できます。こういう大きな技術体系を理解するには、その他の技術体系についての広範な基礎知識も必須なのです。

本書でもその辺りは、触れられているという訳でも無いので、行列式やらスタックマシンやら座標系やらといった勉強は別途必要です。そういった部分への指標だけでも有れば、と思いましたが、本書が入門書として良書であることは変わらないでしょう。

「世界史年表・地図」
出版社:
吉川弘文社
分類:
趣味,単行本

本屋で見かけて、なんとなく買ってしまいました。

昔の人口と今の人口は違いますから、書かれた事象のスケールは、昔になればなるほど小さくなるわけで、そのあたりを勘案しないと、なんというか昔はスゲエって事になりがちなので、注意が必要でしょう。かつて存在した大帝国で、現在の埼玉県一つにも匹敵しうるものがあったかどうか。歴史モノを読む際には、意識的にスケールを対数的に減らしていかないといけません。

そのあたりをさっ引いても、中央アジアや東ヨーロッパ諸国の興亡は、なかなか面白く感じられました。歴史というものは結局、戦争で味付けされた白骨の山、そう心得ていても、歴史にはどこか心を惹きつけるモノがあります。

ただ、この本、読んでも全く役に立たない訳です。自分、この手の娯楽を楽しむ術を忘れかけてる気がします。

「チキンパーティ #1,2」
著者:
金田一蓮十郎
出版社:
秋田書店
分類:
漫画,単行本

家に居付いたデカくてキモい喋る鳥、昼間はどこそこに出かけて、要らぬお節介を焼いているらしい。不審者というか鳥なのでヤメレ。でも奴の、場の空気の読めないポジティブシンキングぶりが、誰かの役に立っていたりいなかったり……

セサミストリートにでも出てきそうな変なトリが、様々な状況の中で唐突にズレた形で正論を繰り出すのが楽しいです。毎度毎度トリに世の悩みを打ち明ける高校生カップルとか、OL姉妹の本音に傷つくトリとかも。

「ガウガウわー太 総集編#1,2」
著者:
梅川和実
出版社:
宙出版
分類:
漫画,ムック

委員長!

いや、犬も猫もハム公も鳥も可愛いし、太助も可愛いし、まぁ大体脊椎動物はみんな可愛いのですが、委員長はもう、ずば抜けている訳です。なにせ眼鏡だし。

動物は好きなのですが、現状で飼いたいって訳では無いので、もしかして自分、あんまし動物って好きじゃ無いのかなー、等と悩む今日この頃です。一軒家でもないと動物って飼いづらいよなぁ。でも、実家では飼い放題だったし、逃げ放題だったし。どっちにしろ猫には嫌われるタイプらしいし。モフると大抵噛まれるんだよなぁ。

……なんであんなに動物飼ってたんだろ。


動物との関係という点では、奴らは頭悪いと見切っているので、本書の中のようなほのぼのとした会話には違和感を覚えますが、まぁ可愛いのでオッケェです。柴犬は可愛いっス。

でもやっぱ委員長。

「ハチミツとクローバー #7」
著者:
羽海野チカ
出版社:
集英社
分類:
漫画,単行本

オ、オレも自分探しの旅に出かけようか、と、前言を翻してそんな思いにとりつかれる内容でした。だって、あの竹本君があんな格好良くなるんですよ!ボ、ボクだって!

まぁ実際には、何処に行こうか、まとまった休みが取れるのはいつになるだろうか、自転車、いや、車、いや電車、と情けなくもふつうの旅になりそうなので、自分探しの旅には出かけません。でも、ココロの底に憧れを植え付けるには十分な内容でした。

でも本当に共感するのは花本先生の立場かも。というか同世代?やべぇ。

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