最近、フィリップ・K・ディックの作品を、「ヴァリス」を手始めに、高い城の男」「パーマー・エルドリッチの三つの聖痕」と来て、「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」と再読してたもんで。実は私、今まで「ブレ・ラン」観た事が無かったのです。
「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」は、たった一つのテーマに従って書かれた、実に実直な作品です。
感情移入、つまり共感の能力こそが、人間らしさであるというディックの主張のために、総てのプロット、ガジェットは存在しています。
つまり、「ブレードランナー」の世界設定も、基本的にはテーマのための道具立てに過ぎません。
映画の方では、テーマは微妙にずれていますが……
ディレクターズカットの内容は、さすがと言うものでした。しかしやっぱ原作の方が良いです。原作にでてくる奇妙な宗教、マーサ教の意味は非常に大きいし、綿密に読んでいくと、寓話的、比喩的なものが読み取れて興味深いものがあります。
ということで、要するに、マヂで未来を描いた作品では無いのです。
九州に、帰ってよかった。
高宮の満遊書店で、探しつづけた超マニアアイテムをGET。
あの「キティちゃん」や「けろけろけろっぴ」のサンリオが、「フィリップ・K・ディックの作品を一つ残らず出版するために」作り、あまりにマニアックなラインナップのために自爆した、不幸なSF文庫の一冊です。
元々の定価は600円。古本屋では1500円。ケイト・ウォルヘルムの「鳥の歌いまは絶え」なんか、4000円の値段が付いている。この分だと、キース・ロヴァーツの「パヴァーヌ」なんて、どんな値段が付いていることやら。
「遊星からの昆虫軍X」で猛ファンになったSTM。スラディックという作家は、例えるなら、破綻したラファティ、症状の進んだラッカー、前世の山本弘といった感じ。
例えば、推理小説(?)の「人間関係ブリッジの図面」。著名な建築家と社会科学者の人間関係を追ううちに、殺人事件に突き当たり、錯綜する人間関係をたどるうち、主人公は関係者を線で結んだ図が、橋の図面になっていることに気がつく。トラスに足りない線から、殺人者を推定するのだが……・(おいおい)
推理小説(?)でもう一本、「密室 もうひとつのフェントン・ワース・ミステリー」というのも、マヂでキている。密室犯罪のトリックと称されるものをとことんパロったナイス作品です。
しかし何より「神々の宇宙靴 −考古学はくつがえされた−」!!
「ムー」系のいわゆるアレのパロディなのだが、いきなり
「ガリレオがピサの斜塔は振り子であることを証明したとき、科学者たちは彼を痛烈に非難した」
やら、
「たとえば、単純なエジプト人が、神々のボールペンや、クレジット・カードや、コンタクト・レンズに、どんな反応を示したことだろうか!」
やら、ナイス文言に溢れています。こいつは買いです。
なお、この短編は、SFマガジン1979年6月号にも掲載されています。そう、こっちも買ったんです。こっちには、他にも「*イ*ッ*・*シ*フ」作のロボットSF、そして「蒸気駆動の少年」(!!)が掲載されています。
短編集に収められていた「古くなったカスタードの秘密」もバカバカしくて素晴らしかったけど、こっちはさらにその上をゆく出来。
あああ、「教育用書籍の渡りに関する報告」が読みたい……