いつものハヤカワ文庫SFです。「銃夢」でおなじみの、ナノマシンのお話です。月の裏側に、いきなり奇妙な構築物が出来てゆきます。幾人もの犠牲者を出し、月面では必死の分析が行われる。発見されたナノマシン。もしこれが果てもなく増殖するなら……
実の所を言うと、このタイプ、ドレクスラ−・タイプのナノマシンは有り得ません。作品ではうまくごまかしていますが、増殖に必要なエネルギ−源、そして材料がありません。物質に常に、ナノマシンの材料一そろいが含まれているとは到底考えられません。その場で増殖するドレクスラ−スタイルでは、エネルギ−の問題をうまく未来技術でクリアしても、材料の段階で挫折します。
自己増殖機械について、思うのですが、元祖自己増殖機械である、有機生命、数十億年掛けて、遺伝的アルゴリズムで最適化を続けて来た究極のシステムに優るものは不可能ではないかと思うのです。
ベンフォ−ド久々の新作に期待大。いわゆる、「大いなる天上の河」「光の潮流」に続く(そして、「夜の大海の中で」「星ぼしの海をこえて」の続編でもある)超大河小説なのですが、次回作でようやくラストになるらしいとのこと。
そう、完結しないし、ラストも尻すぼみの感があります。ただ、なかなか読ませます。損はしなかった、という所か。ただ、ベンフォ−ドに対する期待は裏切られました。今の所。
しかし、SFマガジン1996年5月号のベンフォ−ドの短編とエッセイは、さすがでした。
太陽の彩層の中、磁場につかまったワ−ムホ−ルを捕獲する。そのワ−ムホ−ルは、ペアになったもう一つのホ−ルとの特性のアンバランスのため、質量を吐き出し、そのために負の質量を持っているかのようにふるまう。やっぱベンフォ−ドはイイ!ハ−ドだ!!これこそハ−ドだ!!
舞台はマンチェスタ−。主人公達は、いや、世界中が、奇妙なドラッグ”ヴァ−ト”にハマっている。ヴァ−トによるトリップ、それは、ア−ティストによって造られ、量産される本物(夢?)の世界へと旅立つ事だ。
雰囲気よし。ただ、世界にはっきりとした手触りと質感がないのが悔やまれます。スト−リ−も期待をすると損をします。とはいえ、何か手応えの有る読後感がありました。そのうち、再読しようと思っています。
「天の筏」「時間的無限大」と、好調にハ−ドなナイスヒットを飛ばす、今や飛ぶ鳥を落とす勢いのバクスタ−が、またやってくれました!!
中性子星の”内部”に生きる”人類”。彼らは体長10ミクロン、中性子性内部の、縮退して電子殻を失った原子核たちが、超流動状態になっている内部、鉛原子殻が安定に固体を保つ領域で、”生物”達の豊富に含まれる重元素による核分裂によって生きているのだ。
超流動体を貫く強烈な磁場の中、中性子の疎密波によって”見”て、光を”匂う”人類たち。いやあもう、この設定から圧倒しっぱなしです。
勿論、バクスタ−ですから、イギリス仕込みのウェルズ流、本流SFのテイスト、物語のダイナミクスは、ばっちぐ。
堪能しました。
とうとう手に入れました!!!!!!
つくば市内の、マニアックな品ぞろえの古本屋でGET。内容はグ−。
16世紀で時がとまった世界。二十世紀になってもロ−マ・カトリック教会の支配は続き、ほとんどあらゆるテクノロジ−が禁止された世界。巨大で鈍重な蒸気自動車が山賊の出没する山野を巡り、腕木式の信号機が尾根に連なり、世界を接続している世界。そして、妖精、古き人々がさまよう世界。
いいでしょ、いいでしょ、
この世界の魅力だけで、幸せです。もちろん人々は、つまらない病気や飢饉に苦しみ、容赦ない圧政にもがき、知識を奪われ、そして立ち上がります。そしてやがて、教会の支配の真実を知るのです……
信号機を一手に扱う、通信ギルドの様子、特にその作業の様子は、通信プロトコルをかじった事がある方には興味深く読めるでしょう。
帯に、「ピンチョン、ギブスン絶賛」との文字。
まだ戦争の終わらない世界。アメリカ、ドイツ、そしてオ−ストリア。”総統”のためにポルノ小説を書く男。違う歴史を辿る世界。戦争は続き、男は、年老い、ぼけて幽閉された”総統”連れ出し、アメリカへ、西海岸のとある島へと、物語の始まりへと……
筆力は凄いけど、う−ん、どっかで読んだようだし、凝り方が甘いし、焦点がぼやけてるし、読後感が薄いし。筆力を除けば、「高い城の男」の方が遥かにハイレベルです。
まっ、今の所、歴史改変ものの王座は「ディファレンス・エンジン」で安泰でしょう。文学界でこれが評価されていないのは、ひとえに不確定性原理が判っている奴がいないせい、でしょう。恐らく。
しっかし、いつになったら「ヘミングウェイごっこ」 ジョ−・ホ−ルドマンを文庫落ちさせるんだろ? 福武は。
とうとう文庫落ちしました。自分は、この小説の主張には合意しません。にもかかわらず、絶対のオススメをします。皆さん、読むべきです。カルトになるべき小説です。
主人公の選択には同意しませんが、それは恐らく、主人公がモノを造るタイプでなく、モノを造らないくせに創造性を、センスを産みだそうとするあたりに生理的な嫌悪を覚えるからでしょう。しかし、主人公の感覚、価値観には強烈に共感します。また、物語は、この現代的な、真に現代的な内容に似つかわしくないほどに美しく、泣けて来ます。
自分ははっきり言って、異常な環境にいるので(遊ぶように人工衛星の開発ができる中小企業、の新入社員、という図はあまりにも異常だ)何か辛さを、あの苦さを忘れてしまったようで、評価しにくいのですが、この社会で苦しさに傷ついている、多くの人達に、この本を捧げます。
皆さん、読んで下さい。