かつて存在したSF専門誌(……こう書くと寂しい風が魂を吹き抜けてゆく様だ)「SFアドベンチャー」に掲載された短編を中心に編まれた短編集です。
意外な気もしますが、非航空宇宙軍史ものの短編集は、文庫ではこれが初めてです。ただ、内容的には、航空宇宙軍史の主軸的アイディア”光速が可変である空間、空間を利用した超光速の実現、空間の生命体としての描写”そのもの、もしくはそれに近いものを描くものが多いため、新鮮味は少々薄いかもしれません。
しかし、見逃してはなりません。特に「ホーキングは間違っていた・殺人事件」は必読です。
ボルトもナットも一切出てきません。セラピーものです。これだけで読むのを止める人がいそうですが、割と読めたということを報告します。
夢についての、ありがちめいた夢想のような話に誘い込まれてゆく主人公。患者の語る物語が、分裂病によるものなのか、それとも……
心理学って、科学の範疇なのかよ?という疑問はさておき、作中人物の、洞察と告白は、胸を打つものがあります。物語的には、80年代のドラッグ系サイバーパンクを思わせるものがありました。
ただ、ラストの、<大変化>は、とってつけたようで、読後感を損なうものがあります。
人類に対して、外部知的存在が干渉しているのではないかという仮説。幾つかの異常な事件を再検討した部下トィヴォは、精力的にその謎を追いはじめる。しかし、明らかになった事実は、トィヴォを苦しめることとなる……
いわゆるマクシム・カンメラー物の三番目の作品です。主人公カンメラーの目は、静かに状況を追ってゆきます。物語はうろうろと徘徊しながら、少々もったいをつけながら終盤に向かいます。その中で浮かび上がるトィヴォの人物像はくっきりとしていて、やがて彼が知る結末を際立たせます。
ごく身近な存在の中に、異者が紛れ込んでいたと知った時、あなたはどうしますか。そして、異者との距離がゼロであった時は?
今回ハル・クレメントが、いや、人類がロボット探査機を送り込んだ世界は、地表気圧800気圧、気温370度。活性の高い大気。水の大規模な蒸発と破壊的な降雨。絶え間無い、極端なほどの地殻変動。そして、初歩的な文明段階にある知的生命の存在する世界。
翻訳がかなりシオシオです。冒頭の探査機降下のシーンなんか、けっこう書き込まれていて、丁寧に読み解いて場面を想像すると、結構イケるんですけど、ただ読んだだけでは、何がなんだか判然としません。
さらりと読んだ感想は、あまり高い評価をあげられない、というものです。やはり二番煎じの感がありますし、話の主題である、不時着した子供たちの救出劇があまり燃えないのと状況がよく分からないのが減点対象です。丁寧に読み解けば面白いのかもしれませんが……
SSTO、単段式再使用ロケットについての本です。
SSTOにも様々なものがありますが、この本で特に取り上げられているのは垂直発射、垂直帰還型(VTOVL)のものです。
VTOVL方式の代表的なものとしてはデルタクリッパーDC-X(のちにDC-XAに改修)が挙げられます。というか、それしかありません。皆さんも記憶にあるかと思いますが、DC-Xが垂直上昇の後、水平に移動、そして着陸するという、あの夢のような光景には私も感動しました。
この本でも謳っているとおり、DC-Xは歴史的な機体です。夢想家の机上の空論の死骸累々たるVTOVL方式の陰うつな”伝統”を打破することに成功したからです。DC-Xの開発プロジェクト進行も、その”まず試作する”という姿勢は圧倒的に正しいです。私は彼らを支持します。
ただ、この本そのものについては、はっきり言って読むのをお勧めしません。著者は例の空論共を”正しい方式”と呼び、その他全てを否定します。そりゃ輸送手段としての理想から言えば一番良いのかも知れませんが、いきなり垂直着陸やら再突入時の姿勢反転やらスパイクエンジンやらのクリティカルな技術で一杯の、十人乗りの巨船やら原子力推進船を提案されても、没るのは当然の運命です。
また、本の内容のかなりの部分が、ワシントンDCでの醜いロビー合戦の記述に当てられています。アメリカ宇宙開発の裏を知る上で貴重とも言えますが、それもかかっているバイアスを取り除いた上での事です。相手の誤解をざんざん罵っていますが、副大統領に個人的コネがあるってのは、自己批判の材料などにはならないようです。
感嘆符のやたらと多い文体や、ハインラインやパーネルの名前が肩書きを変えて入れ替わり立ち代わり現れるのにもうんざり来ます。パーネル嫌いという私の偏向を抜きにしても、酷すぎると感じます。実際のところ、宗教本のような読後感があります。”唯一の正しい方式”の押し付けは、宗教と言わずして何でしょう?
さて、読んでしまった人に一言。宇宙開発に投資するならロケットへは止めましょう。どのみちこれから打ち上げ費用はがんがん下がるのです。それより、衛星製造へ投資すべきです。静止通信衛星市場を牛耳るヒューズの現行機種、HS-702の標準価格が幾らか、知っていますか?通信衛星なんて平たく言えばPHSの中継局の親玉に過ぎません。ほら、作る気になりませんか。
そして最後に、著者の確信を鼻でせせら笑える切り札を、私は知っています。
”これが正しい方式だ”と言えると思います。H-IIAの次の構想。まだ構想に過ぎませんが、新聞報道でもあった通り、それは”ロケットプレーン”垂直離陸、水平帰還方式です。全て従来技術の延長です。素晴らしく合理的です。
さて、勝者はどれになるのでしょうか。宇宙開発は熱い盛り上がりを迎えようとしています。
アマチュア無線愛好家によって運用される衛星は、今や非常な数にのぼるようになりました。そんなアマチュア無線衛星を使った衛星通信について、その歴史、文化、技術について書いた本です。
最初のアマチュア無線衛星オスカー1は、ロケット外壁に埋め込まれたラジオビーコンでした。やがて衛星は中継器を積み、出力を上げ、メッセージ蓄積能力を持ち、軌道高度を上げてゆきます。
衛星の軌道要素の入手法、追尾の方法と理屈、そして設備と回路の細部。読み応え有ります。半端な宇宙開発本より、ずっとハイレベルな内容です。
しっかし、Phase-3Dは凄い。故障しなきゃいいけど。
日経サイエンスがめっきりポピュラー化(ニュートン化ともいう)してしまったのに戸惑いを覚え、今月は久しぶりにパリティも買おうと決意。
「いま再びクローズアップされる熱電材料」この動きには注目しているのですが、様々な方向で研究が行われているようです。量子井戸構造によって性能を現在のおよそ五倍にできるという話は、かなり興味深いものがあります。
「ビリヤード台にたとえたアキシオン物理のお話」わかりやすくナイスな喩えを使っていて、かなり面白いです。
「トカマク方式核融合実験炉,ITERははたして可能か」ITERが自己点火条件を達成できない可能性があるというのは、かなりゆゆしき問題であるが、筆者は可能だと論じている。でも、やっぱ、問題はあるのだな。
「”もし”の科学 素粒子編(2)」SFではお馴染みの物理定数いじりの話題です。本人の言うほど飛躍していないのが悲しい。
「[投稿]埼玉県川越市で観測された球電」……これは、編集長(某O槻教授……って、伏せ字になっていない……)の趣味か?
「銃夢」の木城ゆきとの短編集です。もはや「銃夢」しか描けなくなってしまった、終わってしまった感のある木城ゆきとですが、最後の作品解説は読ませます。
うんうん、この勢いで今後も突っ走って欲しいものですが」……
内容は薄手。すれた漫画読みにはお勧めしません。
文庫版もこれで完結。四冊揃ったところで再読。うーん、古本でない「So What?」も良いかもしれない。
表紙のカバーイラストは新作らしいから、しばし鑑賞。この細い線には憧れたんだよなぁ。新作はいつになるのだろおか。
秋深い、空気の冷えた夜長に読むと、しんみりとしてきて、そして、少しだけ幸せになれます。
TRIGUN復活!!
表紙のカッコ良さにまず泣く。これがあのアワーズかっ(笑)ってな塩梅。これまで人目に晒すのを微妙に避けなくてはいけなかった、伝統的にロリヘボ系の多かった表紙が激変。今月だけなんだろうけど。
TRIGUNがMaximumになって帰ってきました。どこら辺がマキシマムかっていうと、ヴァッシュの腕が描きやすくデザインしなおされた点かな。とりあえず、見開きカラーイラストにしばしシビレるべし。内容もナイス。この調子で、今後の展開に超期待。
エクセル・サーガはもはや、当初の目的を忘れ、娘二人組のバイト先を流浪する話へとなってしまった感あり。いや、初めからこうだったような。ところで、某都市の市長って、今だれだろお。
ジオブリーダーズは遂に「エアポート・九」編終局。もしかして「えあぽーと・きゅうはち」と読むべきだったのだろうか。
今月も最高です。緊迫感のある絵、畳み掛けるアクション、ギャグとサービス、そして謎。しかし、いちご牛乳は邪道なのか。男風呂に最後まで洗面器を投げ続ける高見ちゃんがナイス。ある組織での過去(笑)もバレるし。
謎と謎解き、そして見せ場と、きっちり造り込まれた話は毎度ながら唸らずにはいられません。
ところで、折り込みのポスター、梅崎さんがまるで別人。成沢さんがおっきく出ていて、作者に忘れられたわけでは無かったんだと、胸をなで下ろす。”黒猫”が居ないのが少々悲しい。