1994年。”ビル”のみそなわす目の下で働くレッドモニアンたち。マイクロソフトという職場のプレッシャーの中でデバッガーとして働く主人公は、同じブロックハウスで暮らす社員たちとそろって、シリコンヴァレー・ヴェンチャー企業でスタートアップすることを決意する。
ヴァレーの空の下、苦しいスタートアップ期間を通じて、仲間たちの様々の側面を、そして変貌を見てゆくこととなる。そしてそれは勿論、主人公にも言えることだった。
いろんな気持ちで心の中が一杯になるような小説です。
「これってボクのことだ!」というようなシンジくん的自己同一化を警戒する、心の片隅が警報を鳴らすのですが、それがいけないことだという理由を特に思い付けませんでした。恐らく、二十代付近のPCを持つオタクの心理に鋭くヒットすると思います。友人や家族、会社との関係、そして自分自身をどう眺め、どう扱い、どこに向かうのか。ジョークとペーソスの中に、気の効いたオタククールな文章の中に、自分を投影せずにはいられなくなります。
とんでもなくトリビアルな知識を必要とする小説で、SFで無いにもかかわらず、SF読み的な知識傾向を持つ読者しか対象にしていません。あとInterface誌読者とか。自分が対象読者集団にハマっていることに感謝。得難い読感です。しみじみと泣けます。
ラストが唯一、気に入らないといえば気に入りません。オタクヒーリングはそこには無い筈、というのが私の結論です。まぁ、この辺りは各人の受け取り方になると思いますが。こんな風に、様々な思いが、ばかげたもの、些細なものから、ずしりとくるようなものまで、溢れてくる本です。翻訳ミス、用語の間違い等も散見しますが、クリティカルなものではありません。
うーん、”絶対お勧め”って、いくつ書けば読んでもらえるだろうか。全面的に受容することを警戒してしまうような種類の本ですが、読んだ上でじゃないと、そういう事にも気が付かないと思います。
あと数回読み返したら、多少評価も変わるかも知れませんが、対象読者層限定で、現時点で超推薦です。コード書けない人は買わなくても怒りません。ビルを崇拝しちゃっている人やジョークを解さない人は買うべきではありません。
そう、読み方も、再読は時系列に関わらず、ランダムアクセスで読んでみましょう。そんなランダムさが、フォーチュンクッキーのような読み方がオススメ。そういうアクセスのしかたが似合う本です。内容をgrepできないことにイライラしたり、ハイパーリンクをサポートしていないことに失望を感じるような、そんな物語です。
PCの横に、一冊。
新聞記者の主人公は、武装過激派のアジト爆発事件の中に、高校時代の記憶を呼び戻される。五人の仲間たちとロケットに夢中になっていた頃の記憶を。
かつての仲間の関与を疑う彼はやがて、その仲間たちの企みを知り驚くが、よくよく考えてみれば、それは当然のことなのだ、五人の仲間たちは誓ったのだから。
宇宙の底に届く、自分たちの有人ロケットを作るのだ!
うーん甘い。エンジニアリングはそんな甘っちょろいもんじゃ無いぜ。
今年の夏、深夜に放映されていた1クールのTVアニメシリーズ「lain」の脚本を著者注釈付きでまとめられたものです。
あれを最後まで観たのなら、読みましょう。様々な解釈を許し、実際、解釈に困る作品だった「lain」は、この一冊によって真の姿を、豊かな濃密さを垣間見せます。
私はそれを「補完」とは呼びません。受け取り手が組み立てる、意図のパズルだった作品の、見えにくい絵柄を見せてくれるだけです。
そして、私の組み立てた絵柄は、多彩な実験の集合と、そして単純だが矛盾を内包したメッセージでした。
「lain」、もう一度見直しました。意図が明確になってみると、それは非常に観るべきところの多い作品だと思いました。遂にサイバーパンクの現れなかった日本のカルチャーにおいて、アニメーション/ゲームという、シーン駆動力の有るジャンルから生まれた、サイバーパンク(少なくとも、スリップストリーム作品)に相当するものだと思います。それは逆に言えば、日本SFというジャンルに、シーン駆動力が欠落していることの証明でもあります。
今のメインストリームカルチャー、時代精神に適合するSFが、現れてきているのだと考えます。SFというジャンル定義からははみ出しているとは思いますが、それこそが時代精神の現れだと考えます。
シナリオ、アニメーション、両方を摂取しましょう。
絵柄良いぜ!とチェック対象には入れていたのですが、連載掲載誌comicガム号の「ウィンガルが二つあったら」「ツインガルにします」で個人的にブレイク。
改めて観ると、絵柄やっぱ良いです。色々と良いです。センス抜群。ギャクセンスも宜し。前述のギャグのように読者を選ぶギャグだけど、鋭さが良。
しかし、物語の方は散漫。駄目です。読み切りが連載化されたからといっても、私は作品の出来だけを云々していくことにしてますんで、評価はキツめです。世界設定なんてデタラメで構わないですから、読ませるストーリィテリングを望みたいところ。
しかしまぁとにかく、センスは抜群。買って損無し。
えーと、「県立地球防衛軍」ではありません。
毒の含みかたが上品かつ邪悪で、なおかつ人を染め抜く力を持つ凶悪なこの漫画も遂に単行本四冊め。まぁ、染められても登場人物の活動を模倣するのはフツーの人間には無理ですから実害は無いのですが、登場人物の中でも珍しいフツーの人間(渡辺)とか、犬(メンチ)とかの悲哀が笑えたり笑えなかったり。”ワサビ寿司”のくだりなんざもう。
染められるとどうなるかというと、例えば京都のとある場所では”聖典”として崇められているそうです。
今月、発売日前日に入手した人に、周囲が聞く第一声は決まって「HELLSINGは?」返事は「落ちてない!」でした…なんというか。
てことで表紙&巻頭は「HELLSING」表紙が黒くない事に少々落胆(するな)。見所はアーカード対ヴァレンタイン兄貴の吸血鬼対決。互いに大口径銃を突き付け、銃弾をまともに食らいながら撃ち続ける!血を流しのびた屍体の腕が持ち上がり、更に撃つ!額に直撃されようと、自動拳銃を持つ腕が正面を捉える!
この異様な雰囲気で押していっても良かったと思うのですが。
「TRIGUN MAXIMUM」底知れぬ不気味さを見せる怪人対ヒーロー。牧師の十字架銃が吠え、だがそれを軽くいなす魔人。パペットマスターの”芸術”が開陳されるとき、牧師は背後の男の、人にあらざるものの存在に圧倒される。
12月はトライガン単行本が二冊も出るわ、トライガンカレンダー(すげぇ奇麗)買っちまうわ、もう大変です。さて、パペットマスター語変換フィルタでも作ろうか。
「みやなのどんぐ−蒼−」大石まさる氏の読切り短編、田舎に買った山の世話をする初老の男と、その孫娘。学校の休みのたびに訪れる孫娘の回想と、久しぶりに訪れる景色。良い感じです。
「ジオブリーダーズ」遂に事故発生!しかし一体何が起こったのか。何が起きるのか。それに何故私が出てますか?!
成沢の前に立ちふさがるシャッター、停電の暗闇にマズルフラッシュが浮かび上がらせる入江の背筋を凍らせる笑み、そして田波の身に何が起きるのか、栄のTV塔に何が起きるのか。物凄く予想出来るけど、縦って何!!
凄いテンションで進行する別々の二個所シーンに平行して挿入されている、新日本アビオニクス社内の状況は先月からハードで、多少ギャップも感じますが、それは物語の中の各者の位置付けをも語っている訳で、とにかく入江の言動には注目。でもハードな描写がつづいても、ラストはちゃんとジオブリですなぁ。
うーん今月は冷静に読めない。わーいハウンド隊員だーいっ!