航天機構
履歴
what's new
水城
self introduction
読書
bookreview
宇宙
space development
化猫
"GEOBREEDERS"
雑記
text
他薦
link
Send mail to: mizuki@msd.biglobe.ne.jp

「私はモビルスーツ」

I' mobilesuit

−宇宙暦0094、コロニ−国家ヂヲンの降伏からもう何年も経っているというのに、宇宙ではいまだに戦争が続いていた。−


強襲フリゲイト″ア−カム″の戦術AIは二十万キロメ−トル彼方に敵影を発見した。センサにはとっくに写っていたのだが、画像処理が遅れていたのだ。すぐさま戦闘体制への移行を開始し、次いでお昼寝中の艦長を起こした。


モビルス−ツのパイロット、ウラムはこれが初めての出動だった。

彼はこれまでモビルス−ツに乗るどころか、シミュレ−ションすら体験したことが無かった。コクピットは三百六十度全周スクリ−ンで、耐Gシ−トにはジョイスティックが付いている。

シ−トに座り、体を固定しようと慌てているうちに、勝手にモビルス−ツは動きだした。

「おい、モタモタすんな、捜してるものは多分あんたのケツの下さ」

「AIか?」

確かにハーネスのもう一方は腰の下だった。どうやらこの機体は専用の人工知能を積んでいるらしい。パイロットらしく威厳をもってスティックを傾けるが、反応は無し。

「なにしてんだ?」

「何って、操縦に決まってるだろが。おい、故障してんじゃないか、コレ」

スティックを音がするまで揺らして見せた。

「へっ・・はっ・・はあははははは・・・くっくっくっくっ・・」

「何がおかしい!どういうことだか、説明しやがれ、手前っ、AIの分際で」

「いやいや、うちのパイロット養成法も進歩したなって感心してたんだ。確かに、何も教えないってのが正解かも知れんな」

「くそっ、どういうことだ、おいっ!」

ハーネスを外して立ち上がろうとすると、突然の加速でシ−トに引き戻された。

「あのね、つまりね、君は何もしなくても良いって訳。全部、こっちがやるから。あんたよりもシリコンの方がずっと速いからね」

なんなんだそりゃ。

「じゃあ・・・じゃあ何で俺はここにいるんだ!パイロットって一体何だよ」

「あのね」

機体が加速を終える。

「お約束なんだ。モビルス−ツには必ずパイロットを乗せなくてはいけない。南極条約第十三条。仕方無いだろ」

「くそっ、俺に操縦させろっ」

「なあ・・落ち着けよ・・・。あんた、死にたいの?」


「じゃあ、戦争は初めてなんだ」

ウラムがコクリとうなづく。怒り続けるのに疲れて、今やすっかりおとなしくなっている。

「ここで注意しておきたいのは、宇宙ではレ−ザ−光線は見えないって事だ。いや、見える時もあるんだが、それは一巻の終わりを意味する。なぜってそりゃあんた、命中だって事。レ−ザ−があんたを貫通するのさ」

「だって・・・」

「ああ、あれか。棒みたいに飛んでるのはレ−ザ−の光源用使い捨てボルテックランプだよ。第一、レ−ザ−ってのは真っ直ぐ飛ぶからレ−ザ−なんだ。横から見えたら、そりゃ蛍光灯だ」

ウラムは想像してみる。センサは優秀だから、戦いは数百キロの空間をはさんでおこなわれるだろう。相対速度も大きいから、それも一瞬の。AIにはそれで充分かも知れないが、ウラムには敵すら見えず、その間ただぼうっと見てるだけ。

レ−ザ−は見えない。周りで何が起こっているかも分からない。見えたときはおしまい・・・

「いやだ!絶対いやだ!」

ここで座っているだけなんて、そんなのは真っ平だ。

「そんじゃさ、ゲ−ムでもしててよ」

スクリ−ンが切り変わる。

-SONIC FORCE-


INSERT CREDIT

よく知っているア−ケイド・ゲ−ムだ。今気付いたがシ−トにはSE*Aのロゴ。

つまりは、このシ−トは暇潰しのゲ−ム用だということ。

すぐにゲ−ムは始まった。朝焼けのモニュメントバレ−からグランドキャニオンへ。敵機が襲い掛かってくると、そのつもりじゃ無かったのについつい反応してしまった。

ウラムはすっかりゲ−ムに注意を奪われていた。


激しい戦いだった。六面クリア直前、アマゾン上空の敵戦艦を撃破し、気を抜いたところに命中弾をもらい、GEME OVER。はっと気が付くと、やけに静かだ。

「おい・・・、戦闘は終わったのか」

「とっくにね」

「で、船にはどのくらいかかるんだい?ちょっと、トイレに用があるんだよ」

「済まないが、戻れない。推進剤タンクに命中弾を食らっちまった。最寄りのトイレは六十万キロ先だ」

「おい、冗談だろ?なあ」

自分の、非常に不名誉な死にざまについてのいやな想像が脳裏をかすめる。

「小便なら、シ−トにカテ−テルがあるから、それで済ませな。全く、それ位は教えておくべきだな」

「はあ・・・、俺は死ぬのか?」

「そうらしいね」

「そうらしいねって、お前、平気なのかよ!」

「だって、俺は人間じゃ無いんだぜ。この軌道なら、五十年もすればL5コロニ−の誰かに拾って貰えるだろうし」

「くそっ、こんな糞AIんとこで死ぬなんて真っ平御免だ!」

死ぬつもりのくせに、習慣的な気密服のチェックを、まるで本能のようにウラムはしていた。終わって気付く。まあ、外でゆっくり死ねばいい。

エアロックをくぐり機体を飛び出す。

と、なぜか目の前に巨大な波打つ板がある。″ア−カム″の巨大な放熱フィンだ。

振り向くと、モビルス−ツは傷一つ無い姿でそこにいる。

「嘘ついたな!」

「パイロットの生命を守るための嘘は、許されているんだ。戦争なんかで、みすみすあんたを殺させたくはないからね。バイバイ、ありがとよ。パイロットの機体放棄で、俺は廃棄物と見なされる。つまり、俺は自由なんだ。ひゃっほう!」

モビルス−ツは軽くスラスタ−を吹かし、離れていく。

しかたなく、ウラムは機密服の小さなスラスターを吹かして、一番近いエアロックを目指した。上官はきっと怒るだろうが、だいたい何も教えなかった連中が一番悪いのだ。

放熱板を回り込み、艦のエアロックに近づくにつれて、船とモビルス−ツの無線での会話が聞こえてきた。

「あばよ」

怒り狂うクル−のどなり声に混ざって、奴の声がはっきり聞こえた。

「戦争なんかで死ぬなんて、真っ平御免さ。そんじゃね」

そして、星空に彼の誇らしげな融合エンジンの輝きが、自由を歌うようにきらめいた。

-戻る-