旅立ちの春
(05/4)
[文・写真=高橋洋氏] 05年4月9-10日、黒部立山アルペンルートで有名な信州は安曇野
 の大町温泉にて、春の囲卓の会は開催された。温泉麻雀の歴史は02年4月上州水上温泉
 に総勢6名が集まった時から始まったが、今回は第十回の記念大会に当たっていた。
 しかしながら、粥川常任理事会議長(TO88,前回総合優勝により議長職復帰)が本会史上
 初めて欠席となり、その他キャンセルや遅刻、早退の表明が相次ぐなど、当初三卓・
 12名以上を目指した参加者確保は難航した。それでも最終的に9名が春の北アルプスを
 望む大町温泉・立山プリンスホテルに集結し、全12半荘に亘って熱き戦いを繰り広げる
 こととなった。
本大会でまず注目すべきは、花岡道世氏(NZ88)が正式競技者として新規登録されたこと
 である。花岡氏は03年1月浅間温泉より足掛け2年、計5回の温泉麻雀に参加し、自称
 レッスン・プロの高橋理事長(TO88)はじめ、多数正式競技者の薫陶を受けつつ、これ
 まで麻雀競技の研鑽を重ねてきたが、前回1月伊豆熱川温泉麻雀での戦果を踏まえ
 十分な技量を備えているものと本会常任理事会から認定され、本人の同意と自覚の下
 初心者を卒業して正式競技者に昇格したのである。本会の内部進学第一号であった。
それは同時に、手塩にかけて育ててきた
 側から見れば、待望の「新種の鴨」として
 旅立たせることを意味する。これまで
 会則「初心者優遇制度」の下、競技中には
 適宜助言、大敗には損失補填など様々な
 温かい特典を与えてきた。正式競技者で
 ある現役の鴨たちが大負けしても、鴨に
 なる前の雛鳥だからこそ、荒野に吹き
 すさぶ寒風から隔離された温室の中で
 育まれて来たのである。しかし一旦正式
 競技者として登録されたからには、今後
 そのような優遇は一切適用されない。
 いよいよ立派な鴨として独りで大空にはばたき、ネギをしょって恩返しに来てくれる
 ものと他の競技者は皮算用をしていたわけである。

その"新種の鴨"花岡氏は一日目午後は未だ巣立つ前の雛鳥を装い、宮川雅加氏(NZ88)
 ・田中祐美子氏(NZ88)ら他の認定初心者と共に、温室内の教育卓にて非公式競技を
 続けた。しかし夕食後に石塚プロ(正則氏,NA88)が到着するに及び、愈々正式競技者
 として旅立つことになったのである(写真は正式競技者として初参戦の花岡氏ら)。
本大会でもう一点注目すべきは、芝村常任
 理事(KB88)が当面の休会を表明したこと
 である。芝村氏は本会ファウンダーの一人
 にして、イカンガーも吃驚というロケット
 ・スタートを得意としており、とくに温泉
 麻雀では常に上位陣を占めてきた。腕以上
 に本会随一の水準を誇るのは口による心理
 的攻撃であり、「鳥」表示物の取り忘れ指摘
 自らの捨て牌から相手の気を逸らす話術
 など、編み出した必殺戦法は数知れず、鴨
 を食い物にする、本会名物にして誠に迷惑
 な烏であった。
そんな芝村氏が05年5月中旬より中国は上海に赴任することになった。それも「4月
 から」との上司の命令に抗し、「赴任は旧暦の4月から」と得意の口撃力を駆使して、
 黄金週間明けまで延期するとともにこの週末の予定を確保し、休会前最後の本会合
 への参加に漕ぎ着けたのである。氏としては昨年9月の昼神温泉以来7ヶ月ぶりの
 出場であり、前回はブービーで常任理事職の進退伺いを提出した経緯もあった。その
 ため今回の参戦に当たっては、中国への麻雀遠征を前にして昨秋のリベンジという
 気持ちもあったであろう。
この様な波乱の中で展開された本会合であるが、
 全体的に勢力均衡の中で競技は進行した。
 一日目午後の前半戦は、勝者・敗者が目まぐる
 しく入れ替わる中、実力NO.1の矢野プロ(WA88,
 酉太郎氏)や安定感ピカイチ林常務(NA88,義隆
 氏)が上位陣を守った。逆に芝村氏は遠征準備
 の疲れからか調子に乗り切れず、ロケット・
 スタートに失敗。また石塚プロから美味しい鴨
 と見做されている戸矢博明氏(TO89)も鬼の居ぬ
 間に得点を稼いでおくべしと冒頭飛び出そうと
 したが、息切れし十分な貯金はできなかった。
石塚氏が夜10時に到着してからの中盤戦は二卓制となった。
 ここで戸矢氏は予想通り、獰猛な鷹に睨まれた鴨の如く一歩
 も動けず食われてしまう一方で、前半戦で調子に乗り切れな
 かった高橋は、割れ目ルールを巧みに活用し何と石塚プロを
 飛ばす等快進撃を重ねた。一方で芝村氏は夕食を経て腕にも
 口にも切れを欠き、けたたましい口撃は影を潜めた。それに
 リズムを狂わされたのか、毎回芝村包囲網の中心人物として
 活躍する矢野プロも調子を崩し始めた。その様な中で、花岡
 氏は新種の鴨としてのデビューを飾ったのである。
何とその結果は、初めての正式競技の半荘にして、初めてのトップ賞であった。
 今や鴨役を譲ろうとしている前川賢司氏(KG88)が初参加の水上温泉にて、そもそも
 1回上がる(注:1半荘には最低8回以上の機会がある)まで9時間を要し、2日間
 かけ(注:概ね10半荘程度)一度もトップ賞を取れなかったことを考えれば、これは
 驚異的な記録である。その後も、矢野氏や林氏といった猛禽類を相手に再びトップ
 賞を獲得するなど、とても新種の鴨とは思えぬ豪胆な戦いっぷりに、他の競技者は
 驚愕するとともに、これまでの授業料を還元してもらえるとの期待が幻想に終わり
 そうなことに失望した。こうして花岡氏は、初心者の田中氏ともども午前4時まで
 堂々と卓を張り続けたのである。
更に二日目は、戸矢・田中両氏が車で帰京
 した後、午前8時から一卓のみで終盤戦が
 再開された。9時過ぎ最終半荘を迎える段階
 で断トツのトップは前夜から好調を持続した
 高橋で117ポイントと二位以下を100ポイント
 以上引き離していた。そして最後の半荘に
 臨んだ高橋・芝村両常任理事は、手塩に掛け
 育ててきた花岡氏から、そろそろ授業料の
 納入があると期待していた。しかしながら
 花岡氏は、二人からそれぞれ240Zの本会合
 最高得点をもぎ取り、芝村は飛びスレスレ、
 高橋は遠く彼方へ飛ばした上で、総合成績でも高橋を43ポイントの二位に引きずり
 下ろし、自らは58ポイントで総合優勝をさらうという、離れ業をやってのけた。

結果として芝村氏は−74ポイントと戸矢氏も下回り初の総合最下位となり、休会前
 最後の温泉麻雀において自らご祝儀を配り回り、中国遠征に旅立つというよりは
 追い出された結果に終わった。一方の高橋は、恩を仇で返された上、朝風呂にも
 入り損ねてしまうという、これまた悲惨な結果に終わった。自ら育てた「鴨」は、
 いつの間にか旅立ち、自らを上回る「雌鷲」として箸を持って眼前に帰って来たので
 あった。
こうして第十回温泉
 麻雀はこれまで以上
 の盛り上がりの末に
 閉幕した。終了後は
 周辺を散策し「酒の
 博物館」を観覧後、
 絶品の岩魚料理を
 賞味した(下写真)。
 恒例の反省会では、
 優勝の花岡氏より
 恒例の反省会では、優勝の花岡氏より相変わらず
 「鴨を被った」発言が為される一方、"鴨にされた"
 高橋からは「恩知らず」とのしつこく連呼、芝村氏
 からは、最下位を励みに本場中国で修行に勤しむ
 こと、上海では訪問者によっては歓待する旨発言
 があった(上:勝者の弁と敗者参った!の図)。

1995年の設立から10年が経とうとしている囲卓の
 会だが、「世代交代」が進む中、今後は新たな形で
 展開していきたいと考えている次第であり、関係
 各位には更なるご協力をお願いしたい。