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観客の学校・甲府校リポート
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■■第4回 2002年10月5日(土)
第3回観客の学校の終了後の9月15日、「つなぐnpo」は、特定非営利活動法人の認証取得に向けて設立総会を開催した。
観客の学校をはじめて以来、いろいろな人と出会い、
いろいろな示唆をいただくにしたがって、
だんだんと今後の方向性が見えてきて、法人格を得ることによって活動の場を広げていきたいと考えるようになったのだ。
というわけで、第4回観客の学校は、「つなぐNPO」発足に向けて、再び「NPOとは何か」を考える。題して「夕方まで生座談 もうじっとしていられない、山梨県を元気にするために自分たちもなんかしなくっちゃ!」 参加者は32名。
■座談会「ミュージアムとNPOの幸福な昼下がり」
パネリスト/山路恭之助(「NPO法人文化資源活用協会」企画委員)
丸山高弘(「NPO法人文化資源活用協会」理事)
コメンテイター/小林是綱(「NPO法人地域資料デジタル化研究会」理事長)
司 会/山本育夫(「つなぐNPO」理事長)
NPOが運営に参加するミュージアム
町立のミュージアムの一室をNPO法人が間借りして、
ミュージアムとNPOの協働作業が展開されている事例は、第1回目の観客の学校でも紹介した。
山梨県の須玉町歴史資料館とNPO法人文化資源活用協会(文資協)の例だ。本日は再び資料館の山路さんと文資協の丸山さんにご登場いただいた。
須玉町の資料館の魅力の一つは明治時代の学校校舎を修復・復元して使っていることだが、
さらに興味深いのは、 その隣に大正、
昭和の各時代に建てられた校舎があることだ。
時代の異なる校舎が3棟並ぶのは全国でも珍しいケースだが、
廃校となった後は、いずれも荒れ果てていたという。
これを惜しんだ山路さんたちの仲間が個人的に手入れをし、その重要性を訴えつづけた結果、農林省の補助金を受けられたのが数年前。現在は、明治の建築が資料館(コレクションは、縄文時代の土器などの考古資料から戦前の日用品や地図、
教材など、近代の歴史・民俗資料まで広範に及ぶ)、大正館がソバやほうとうづくり、
田植えや稲刈りなどの体験学習の場、昭和館がレストラン「おいしい学校」と地元の農産物を販売するショップとして活用され、須玉の人気スポットになっている。
「文資協」は、当初からの仲間たちが中心になり、
山梨県の県民生活課とも相談の上で設立されたNPOだ。
決して裕福ではない須玉町にとって、
通常で年間1000万円ほどかかる資料館の維持費の捻出はやっかいなこと。だが、店子のNPOが資料館の活動支援をすることで、
館の支出は300万から400万円に抑えられている。一方、賃料無料は文資協にとっても大きなメリット。文資協は現在、国の緊急雇用対策の助成金を得て、須玉の文化財や発掘記録などのビデオ映像をデジタル化し、ネット上に須玉オープンミュージアムを開設している。また、
町村合併の嵐の中、まちの動画記録を残すことを重視する文資協は、
放送局への番組提供といった可能性も考えながら作業を進めているそうだ。資料館の趣旨と文資協の志が実にうまく伴走しているわけで、行政とNPOのまだ珍しい協働ケースとして、全国からの視察も多いという。
図書館の活動から生まれたデジタル化研究会
コメンテイターとして登場された小林是綱さんは、
「NPO地域資料デジタル化研究会(デジ研)」の理事長だ。
3年ほど前、 図書館の地域資料が館の人員不足や予算不足から整理されずに放置されているのを憂えた小林さんたちは、民間のボランティアの力で、資料の整理・活用を進めようと研究会を発足した。
NPOとして認証を受けたのが1年前。現在は図書館に限らず、美術館や博物館も含めた施設を民の力で運営しようと活動を行っている。具体的には、新しくつくられる山梨県立博物館の設置に協力して「まちかど博物館設置の提言」を県に対して行ったり、郷土に関わる美術作品や、
甲州方言、道祖神などの民俗資料の採録や記録のデジタル化を進めたり、デジタル・アーカイブをつくるための講習会なども計画している。
デジタル・ライブラリアン協会のNPO化にも関わる小林さんは、図書館経営のスリム化のために民間委託を進め、司書という専門職の仕事を素人に任せようとする最近の傾向には批判的だ。スリム化を図るならば、専門知識をもつNPOを参画させた上で、そこから民間参加を導く必要があり、そこにNPOの大きな役割がある、というのが小林さんが強調された点である。
NPOの「ここ」が聞きたい
さて、 これからNPOとしての活動をはじめようとする山本さんが、この日、先輩NPOに問いかけた疑問は、
主に2つの点だ。
1つは、例えばこれまで公立機関に浸透したボランティアの活動と、同じように営利を目的としないNPOの活動はどうちがうのかという点。
これに対する小林さんのコメントは、実際に責任をもって委託事業を受けるのはNPOで、そのNPOの志に賛同してボランティアが協力するのではないか、ということだった。例えば図書館のケースであれば、司書的な知識と意欲をもつ人たちがNPOとして地域の図書館を運営する一方、地域の人たちはNPOメンバーだけでは大変だろうからと、ボランティアでカウンター業務を手伝ったり、
自宅の本を寄付したり、
運営費や購入費のために資金援助をしたりするということだ。
ボランティアの協力の仕方はこんなふうに労働力の提供や資金援助、物資援助など、その人の状況によってさまざまだが、
それをコーディネートしていくのがNPOの重要な仕事になるというわけ。つまり両者のちがいは、責任の度合いと専門性のちがいということになるのだろうか。だが、その志は共通。協力し、互いに補い合って働くパートナーということにもなる。今後は、そのように「協働の時代」になるだろう、という小林さんの予測が印象的だった。
もう1つの疑問は、 お金の問題。さしあたり国や県からの補助金・助成金が大きな財源になるだろうが、やはりNPOにとって自立は重要な問題だ。NPOは非営利活動法人だが、
営利ではない大きな目的を達成するために、営利事業を行うことは認められている。そこで自立を目指すNPOは、設立趣旨に合う限りでさまざまな委託事業を受注することになる。だが、「公務員では賃金が高いし、企業委託は高額なので、ひとつNPOに安く任せてみよう」というような傾向が、委託する側に生まれるのではないか、という危惧がないわけではない。
これに対して小林さんから、安いからといって安易に使うのは間違っているにしても、今後、年功序列の給与体系に対して見直しが起こってくる可能性があるとのコメントがあった。例えば農作物であれば、若い人がつくった野菜も年寄りがつくった野菜も値段は同じだし、法事の際のお坊さんへのお布施も、お坊さんの年代によって変わるわけではない。同じようにNPOをベースに考えれば、賃金は生涯変わらないという、新しい給与体系が生まれる可能性があるというのだ。
それでは果たしてそのような給与体系が、NPOの働き手たちに受け入れられるのか。これに対しては、文資協の丸山さんからコメントがあった。丸山さんによれば、NPO活動の場合、「どうしてもこの仕事をやりたい、やらなくてはいけない、それが町のみんなのためになるのだ」といった志がある場合、仕事のやりがいが収入の不足を抑えることになるのだという。NPO活動がその人の自己実現の場所となれば、その人にとって、賃金の高低の意味は後退するということだ。逆にいえば、そのように一人ひとりの志や理念の受け皿とならない限り、NPOが存在意義をもつのは難しいともいえるのだろう。
まだ考えなければいけないこと、自分たちなりに理解し、納得しなければならないことがいっぱい残されているような気もするけれど、夕方の終了時間となったため、本日はここまで。残りは宿題ということで。
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